目次
前半のおさらい
本記事は、コード耳コピのコツについて述べた記事の後半です。まだ、前半を読んでいない方は、以下の記事を読んでいただくとありがたいです。
前回は、曲のキーを知ることが、コード耳コピをするうえで重要であることを書きました。なぜなら、曲のキーを知ることにより、使われるコードを大幅に絞り込むことができ、更に、キーが分かっていると、ある程度はコード進行のパターンで進行が予測できてしまうことが多いからです。そして、キーを知る方法として、楽譜から判定する方法、音楽理論に基づいた方法(楽譜の調号や使われる音で判断)と、感覚に基づいた方法(完結したという感覚で判断)という2方向からのアプローチで、キーを判定するところまで説明しました。
今回はいよいよ、そのキーを元に、各フレーズのコードを判定する手順を説明していきたいと思います。題材とする曲は、前回に引き続き、桐谷健太「海の声」のサビ部分とさせていただきます。
コード耳コピの第2段階 各フレーズごとのコードを判定する
基本は、「よく使われるコード」のどれか
コードの判定をするにあたり、前回用いた表を再掲します。
調号 | キー | よく使われる音 | よく使われるコード |
♭6個 | G♭(E♭m) | ソ♭ラ♭シ♭ド♭レ♭ミ♭ファ | G♭A♭m B♭m C♭D♭E♭m |
♭5個 | D♭(B♭m) | レ♭ミ♭ファソ♭ラ♭シ♭ド | D♭E♭m Fm G♭A♭ B♭m |
♭4個 | A♭(Fm) | ラ♭シ♭ドレ♭ミ♭ファソ | A♭ B♭m Cm D♭ E♭ Fm |
♭3個 | E♭(Cm) | ミ♭ファソラ♭シ♭ドレ | E♭Fm Gm A♭B♭Cm |
♭2個 | B♭(Gm) | シ♭ドレミ♭ファソラ | B♭Cm Dm E♭F Gm |
♭1個 | F(Dm) | ファソラシ♭ドレミ | F Gm Am B♭C Dm |
なし | C(Am) | ドレミファソラシ | C Dm Em F G Am |
#1個 | G(Em) | ソラシドレミファ# | G Am Bm C D Em |
#2個 | D(Bm) | レミファ#ソラシド# | D Em F#m G A Bm |
#3個 | A(F#m) | ラシド#レミファ#ソ# | A Bm C#m D E F#m |
#4個 | E(C#m) | ミファ#ソ#ラシド#レ# | E F#m G#m A B C#m |
#5個 | B(G#m) | シド#レ#ミファ#ソ#ラ# | B C#m D#m E F# G#m |
#6個 | F#(D#m) | ファ#ソ#ラ#シド#レ#ミ# | F# G#m A#m B C# D#m |
前回、「海の声」のキーはEであることを明らかにしました。したがって、この表の「キー」の欄がE(C#m)となっている行(赤文字で強調しました)を見てください。
今回重要となるのは、その行の一番右、「よく使われるコード」の欄です。ここには、E, F#m, G#m, A, B, C#mの6つのコードが書かれています。これは、キーがEまたはC#mの曲では、これらの6つのコードが頻繁に使われるということを意味します。
なぜこれらが頻繁に使われるかというのは、音楽理論やコード理論を勉強していただければわかるので、この記事では詳細は割愛しますが、基本的には上記6つのコードを弾きながら、違和感があるかないかを調べていくと、楽曲の大半の部分のコードを判定することができます。(なお、音楽理論を習った方は「ダイアトニックコード」という言葉を聴いたことがあるかと思いますが、ここで記した「よく使われるコード」とほぼ同じ意味です。「ほぼ」というのは、一般にダイアトニックコードに含まれるのは7つあり、そのうち使用頻度が少ないⅦdimコードを省いているからです。)
例えば、「♪空の声が」の「のこえ」の部分からスタートしてみましょう。この部分で、曲と合わせてE, F#m, G#m, A, B, C#mの6コードを順に奏でてみてください。
この時重要なのは、CDなどの音源と合わせて演奏するということです。バック音源なしで、自分で歌いながら演奏すると、間違ったコードでも違和感がないと思えてしまうことがあります。しかし、CDの伴奏も流れている状態で、ギターやピアノでコードを弾いた場合、間違ったコードを弾いたら違和感がすぐに感じられるはずです。
おそらく、違和感がなかったのはEのみだったのではないでしょうか?他の5つは、不協和音を感じるか、不協和音ほどではないけど、「なんか違うなあ」という感覚になったかと思います。どれも違和感がないと感じる場合、まずはその違和感を持てるように音感を磨かないといけません。このことはコード耳コピに限らず、単なるメロディー耳コピでも大切です。それにはとにかく数をこなすことが大事だと思います。
同様に「が~き」「きたく」「て」の部分を判定していきます。違和感を感じないコードを書き出していくと、おそらくE→B→A→Eと進行しているのではないかと推測することができるでしょう。知ってるコードをむやみやたらと弾いていくのに比べたら、6個に限って試すのはだいぶ楽だと思います。それでも、少し面倒だと思いませんか?
この後は、よく使われる6コードを機械的に試していく以外で、色々な視点からもう少し簡単にコード進行を判定できる方法を紹介してみたいと思います。
コード進行のパターンから推測する
コード進行には無限の可能性があります。しかし、実際に発売されている多くの曲は、よく使われるコード進行のパターンの組み合わせでできています。
たとえば、僕が書いた以下の記事では、サビの最初の2つのコードにより、曲をパターン化することを試みています。
この記事では、最初の2つのコードだけで20を超えるパターンを紹介していますが、J-POPでヒットしている曲の半分以上は、当該記事に書いている「カノン進行」「王道進行」「小室進行」と呼ばれるパターンで始まります。しかも、最初のコードがその曲のキーと同じEであることがわかっていれば、この3パターンの中では、次に来るコードはBしかありえません。したがって、Eの次はBではないかと、弾いて試す前から推測することができるのです。
もちろん、半分以上とは言いましたが、上記3パターン以外の進行も存在しますので、この方法だけだと外れる可能性も多々あります。今回はたまたまBで正解でしたが、Aが正解のこともあればC#mが正解のこともあるでしょう。だから、最終的には推測するだけではなく、実際に弾いてみて違和感を感じるかどうかを試さないといけない、というのは今までと変わりありません。ですが、6個のコードを順に試すよりも、知っているコード進行のパターンで決め打ってから試した方が、少しだけですが正解に早くたどりつく可能性が高まるでしょう。
先ほど挙げたリンク先の記事は、あくまで僕が分類を行うために、最初の2つのみのコードに注目したものなので、実際にはこれよりも多くのパターンが存在します。何故ならサビの先頭2つではあまり使われなくても、それ以外の箇所で使われる進行は他にも存在するからです。
ネット上を検索すれば、最初の2つに限らず色々な方法でコード進行のパターンを紹介しているサイトがあります。しかし、それらのパターンを記号を見るだけでは暗記していくことは難しいでしょう。実際に多くの曲を聞いて、それらの曲のコード進行を知ることで、このパターンはよく使われているな、といった経験を少しずつ貯めていくほかはないと思います。主要なコード進行のパターンを、譜面を見ずとも演奏できるくらいになるまでは、わざわざパターン表を見てコードを探すよりは、6コードを試す方が早いかもしれません。
最低音(ベース)に注目したコード判定法
上の方で、良く使われる6つのコードを使う方法で、コードの大半は判定できると書きましたが、それでも楽曲の全てを埋められるわけではありません。良く使われるコード以外のコードも存在するからです。そして、このようなコードはよく使われるコード進行のパターンにも登場しないことが多く、ここまで挙げた方法だと判定できないことがあります。
「海の声」の場合、最後の「♪探してる」の「探して」の部分で鳴っているコードがそれに該当します(逆に、この曲のサビは、この部分以外は全て上記6つのコードで表すことができます)。この部分で、上記で挙げた6コードを弾いてみてください。
おそらく、どのコードを弾いても、原曲とは同じ響きにならないのではないでしょうか?ということは、この部分では「よく使われるコード」以外が使われていることが推測できます。
しかし、よく使われるコード以外だと、考えられるコードは山の様に存在するので、それらを全て試してみるのは大変です。そこで、1つの方法として最低音に注目した方法を説明します。
最低音に注目する利点は2つあります。1つ目は、最低音はたくさん音が鳴っていても、比較的聞き取りやすいからです。音楽で一番聞き取りやすいのは最高音であったりボーカルだったりするのですが、その次くらいにベースの音が聞き取りやすいのです。逆に、中間くらいの音は1つ1つ判別するのはかなり難しいです。
もう1つの利点は、最低音がそのコードの基音である可能性が極めて高いという点です。基音とはコードのアルファベットのことです。CやCmなら基音はどちらもCのことです。基音でなくても、そのコードの構成音である可能性が高いです。なぜかというと、コードの構成音でない音をベースで鳴らすと、聴く方からすると違和感を感じることが多いからです。
ただし、ベース音で判定する方法を使えるための条件があります。それは、ベースが単一の音を弾いている場合です。たとえば、1小節の最初で弦を一回だけ弾いているパターン、それから速いテンポの曲であっても”ララララララララレレレレレレレレ”のように、ある程度まとまった部分で同じ音ばっかり弾いているケースです。これらの場合は、ベースの音から基音を判定しやすいと言えます(この例ならコードはA→DやAm→Dmなどと推測できます)。
一方、ベースの音が小刻みに変動する場合は、この方法はあまり使えません。たとえばギターは同じコードを鳴らしているのに、「ララドドレレミミ」などとベース音が動くケースがあります。このような場合、基音がどれであるのか判定するのが難しいので、他の方法を使った方がいいかもしれません。
さて、「海の声」の「♪探して」の部分を、とにかく低い音に注目して何度も再生してみてください。ボーカルが入っていない音源が手元にあるのなら、その方がよいです。イコライザ等で高音部をカットしてもいいでしょう。すると、ベースのような、ギターの太い弦のような、低く太い音が聞こえてくるかと思います。この音が何の楽器の音かは判定する必要はありません。音程さえ耳コピできれば構わないのです。ギターやピアノでいろんな音を弾いて、その音と同じかどうか判定してみてください。
この辺の単音の耳コピも、すぐにできるか、それともなかなかできないかは経験次第だと思います。絶対音感があれば楽器がなくてもわかるのですが、そうでなかったとしても、自分で楽器の音を弾いて、それと同じ音か、違う音かを判定できることは、耳コピにおいては非常に重要な技術になります。
このベース音らしきものを耳コピすると、おそらく、「ラ」(A)の音ではないか、という答えに行きつくと思います。ベース音がラ(A)であることがわかったところで、コード判定に話を戻しましょう。ベースの音はコードの基音である可能性が高いと言いました。Aを基音とする主なコードは、AとAmです。
しかし、Aは、キーがEである曲のよく使われるコードの6つの中に含まれているので、既に試して不正解であるということがわかっています。となると、残りはAmしかありません。そこで、Amを「探して」に合わせて弾いてみましょう。今度は違和感なくすんなり聴けたのではないでしょうか?
Amというコードは、Eのキーの曲においては、通常は登場しないコードです。実際、「探して」の部分は、コード理論に基づくのであれば「A」というコードを使った方が自然な箇所です。しかし、ここであえてルールに反する「Am」を使うことで、あえて瞬間的に違和感を出させ、聴いている人を惹き付けるのです。このような変化は、あまり多用しすぎるとおかしな曲になってしまうのですが、適度に使うことによって、曲にアクセントを持たせる重要なテクニックになっているのです。なお、このように通常使われないことでアクセントを与えることができるコードのことを「非ダイアトニックコード」または「ノンダイアトニックコード」と言ったりします。
「違うけど近い」と思った時は1音だけ変えてみる
コードを判定する際に、色々試し弾きして、「これは違う」「これは合っている」とやっていくわけですが、「これは違う」と思った時であっても、「全然違う」場合と「近いけど違う」場合がなかったでしょうか?
全然違う場合とは、曲に合わせてコードを弾いた瞬間、不協和音にしか聞こえないようなケースです。一方、「多分違うとは思うんだけど、そこまで不快感を感じないな」と思える場合が存在します。たとえば、「空の声が聞きたくて」の「きたく」の部分のコードは、正解はAなのですが、あえてC#mを弾いてみたとします。
カノンコードのパターンから推測した場合、E→B→C#mという進行の方が自然なので、まずC#mを試すという方も多いかもしれません。そして、実際に弾いてみると分かるのですが、C#mであってもそこまで大きな違和感は感じません。確かに、原曲に合わせると「何か違うな」と言う感覚にはなりますが、不快感を感じるほどの不協和音ではないように思います。
そのような場合、コードの構成音を1音だけ変えたコードが正解である可能性が高いのです。
構成音を1つだけ変えるとはどういう意味でしょうか?構成音とは、そのコードを鳴らすときに必要な音のことを言います。例えば、Aの構成音は「ラ」「ド#」「ミ」で、C#mの構成音は「ド#」「ミ」「ソ#」となります。この2つの構成音を比べると、「ド#」と「ミ」の二つが共通していて、残りの1つの音だけが互いに異なることが分かります。このように、構成音のうち2つが共通しているコード同士は、音の響きが非常に似ており、コードの判別も難しいのです。
したがって、「なんか違うけど、大きな違和感はない」と思った時は、構成音のうち1つだけが違うのではないかと推測ができるわけです。
この例だと、なんか違うなと思ったコードはC#mでした。このコードと、構成音が1音だけ違うコードは、Aの他に、「ミ」「ソ#」が共通しているE、「ド#」「ソ#」が共通しているC#などが挙げられます。この3つくらいとあたりをつけて実際に弾いてみることで、C#mよりもAの方がしっくり来るということがわかるのです。
この方法についても、「大きく違和感がある」「少しだけ違う」「完全に一致」などは感覚の問題なので、なかなか理論だけで実践していくのは難しいでしょう。すらすらと耳コピができるようになるためには、何度も耳コピの経験を積んで、腕を磨いていくしかないと思います。
単音と比べてみる
他にも、コードが分からない時のコツはあります。これはベース音に注目する方法と近いのですが、ベース音でなくとも、1つの音を鳴らした時の違和感でコードを推測できることもあります。たとえば、上記の「聞きたくて」の「きたく」の部分で、”ミファ#ソ#ラシド#レ#”の音を、1つづ曲に重ねて弾いてみてください。
例えば、「き」のタイミングで、ギターの第1弦を開放弦で鳴らして「ミ」の音を弾いてみます。それほど違和感はないと思います。次に、「ファ#」を弾きます。ここでは「おや?」と思うかもしれません。
こうして「ソ#」「ラ」…と、1つずつ音を鳴らしていくことで、特に違和感がない音だけを拾い集めていくと、そのフレーズのコードになる可能性が高いです。これは、コードの構成音を単音で鳴らせば、違和感を感じることはほとんどないからです。
しかし、これは確実な方法ではありません。なぜなら、単音はコードと違って、不正解であっても必ずしも違和感を感じるとは限らないからです。もしコードの構成音以外を鳴らしたら不快に感じるのであれば、メロディーにはコードの構成音以外使えないことになってしまいます。もちろん、実際の曲のメロディーではコードの構成音以外も普通に使われます。というより、コードの構成音しか使わない曲など、ほとんど存在しないでしょう。
ですので、この方法は単独で確実な方法として用いるのではなく、コード判定に行き詰った時の、様々な方法の1つ、と言う程度の認識で考えていただいた方がいいと思います。コードを特定するというよりは、ありえないコードを除外する方法といった方がいいかもしれません。
まとめ
以上、2回にわたってコードの耳コピによる判定の流れやコツを書いてきました。でも、正直何を言っているのか意味が分からないという人も多かったと思います。耳コピは実際のところ、文章を読むよりとにかく実際にやってみることの方がはるかに大事です。
キー(調)の概念すら知らないまま実践に移る、などはさすがに無謀だと思いますが、ある程度の基本がわかっているのであれば、パターンを丸暗記するよりは、とにかく数をこなして感覚で理解できるようになるのが大切です。そして、耳で聞いて身に付いた様々なコード進行のパターンは、耳コピだけでなく自分が新しい曲を作る時にも役立つことは間違いないでしょう。