雀が原中学卓球部「灼熱スイッチ」のコード進行解析と楽曲の感想


本記事では、2016/11/25発売の、雀が原中学卓球部の楽曲「灼熱スイッチ」のコード譜と、音楽的な解説、および楽曲を聴いた感想を記していきます。

「灼熱スイッチ」の概要

本曲は、アニメ「灼熱の卓球娘」のオープニングとして使われている楽曲です。本曲を紹介しようと思ったきっかけは、当ブログを読んでくださっている方から、この楽曲のコード進行について質問されて聴いてみたところ、サビの最初のところで見たこともないようなコード進行が登場し、「なんじゃこりゃ!」と驚いたためです。作曲・編曲は、アイマスなどのアニソン曲を多く手掛けている田中秀和氏です。

「灼熱スイッチ」のコード進行

●Aメロ(前半)
|G|G|A/G|A/G|
|Cm/G|Cm/G|G|G|
|C|D/C|Bm|B♭dim|
|Am|A7|D|D|

●間奏
|G|A7/C#|Cm|F7|
|G|A7/C#|C|F7|

●Aメロ(後半)
|G|G|A/C#|A/C#|
|C|D/C|Bm|E7|
|Am7|D|Bm|E7|
|Am|D|G|G|

●Bメロ
|Am7|D7|GM7|Em7|
|Am7|D7|GM7|B7|
|Em|D#aug|G/D|C#m7-5|
|C|A7|B7|B7|

●サビ
|Gaug/F|Em7|G7|C|
|F#m7-5|B7|Em D#aug|G7/D|
|C#m7-5|CmM7|Bm7 B7|E7|
|Am7|D7|GM7|E7|
|Am7|D7|

●間奏2
|C|Cm6|Bm7|…

本曲は、キーがGメジャーで楽譜で書くと#が1つの調です。サビで特殊なコードが使われていると書きましたが、他にも興味深い部分はあるので、簡単にみていきましょう。

まず、Aメロですが、最初の方はベースラインをGで固定したままコードのみを変化させる手法がとられています。このようなテクニックに名前がついているかはわかりませんが、比較的よく使われる手法です。似たようなものに「クリシェ」がありますが、「クリシェ」は複数音を固定して1音だけ移動させる手法の事を呼ぶのに対して、本曲のAメロは「1音だけ固定して他を移動させる手法」なのでちょっと違います。

ちなみに、Bメロの9小節目からの進行が、上部の「ソシ」を固定してルート音を下降させているので、まさにこちらが「クリシェ」ですね。

さて、本題のサビの解説に入りますが、冒頭からGaug/Fという見慣れないコードが登場します。「この部分のコードの耳コピができないのですが…」と、当ブログの読者の方に相談されたとき、即座に回答できずに10回以上同じフレーズを聴きなおしたのを覚えています。何故すぐに耳コピできなかったかというと、音がたくさんあるから…ではなく、「聴いたことがない響きだったから」です。

どういうことかというと、僕は普段耳コピをするときは、「聴いたことがある響き」かどうかで判定することがほとんどです。たとえば、C→G→Amのようなカノン進行であれば、「構成音がド、ミ、ソだから、最初はCで…」なんてことはしておらず、「キーがCで、カノン進行の響きだから」という理由で、構成音を全て聞くことがなく判定できているのです。もちろん、記事として書くわけですから、実際にそのコードを弾いて、原曲と違和感がないかどうかの確認はしますし、ちょっと怪しいなと思った場合はセブンスとかが鳴っているかどうかとか、ルート音が異なる転回形ではないかといった考慮はします。しかし、最初に「あたりを付ける」「推測する」場合のコード進行は多くの場合において一瞬のうちに特定できているのです。

しかし、本曲のサビの最初のコードは、そもそもが「聴いたことがない響き」だったため、上記のような方法はとれず、「構成音を全て聞き取る」という最も原始的で難しい手法でしかコードを判定できず、非常に苦労したのです(ルート音がFであることは比較的簡単にわかるのですが、逆にFで始まるコードという先入観があったからこそドツボにはまったのでした)。

そうして苦労して聞き取った結果、僕の中では「Gaug/F」というコードであるという結論を出しました。他サイトではもう1音くらい多いコードを掲載されているところもありますが、この時点で既にほとんど他で例を見ないようなコードになっており、更に音が追加するとわけがわからなくなってしまうので、Gaug/Fが正しいとして解説させていただきます(なお、GaugはBaugやD#aug等と構成音が同じであることから、Baug/FでもD#aug/Fでも問題ないかと思います)。

何故、このコードが大変珍しいのでしょうか?まずは、「オーギュメントコードがサビの先頭にある」という点が挙げられます。〇augというコードは、特殊な響きを持ったコードではありますが、楽曲の途中に出てくることは多くあります。しかし、「サビの先頭」がaugコードから始まる楽曲というのは、ほとんど聞いたことがありません。したがって、サビの最初のコードが分数コードではなく、単にGaugだったとしても、「珍しいコード進行だな」という感想は抱いたと思います。

また、ルート音に着目すると、Gメジャー調におけるFですから、ローマ数字だとⅦ♭に相当します。Ⅶ♭から始まるコードが使われることがないわけではありませんが、比較的使われることが多い単独のⅦ♭(本曲の調ではF)やⅦ♭7(F7)ですら、サビの先頭で使われる確率はほぼゼロと言ってもいいでしょう。

つまり、「サビの先頭で使われることがまずありえないaugコードと、Ⅶ♭がルート音であるコードが、サビの先頭で使われている」というだけでかなり珍しい部類の楽曲であることがわかります。

ただし、それだけが珍しさの理由ではありません。もっと大きな理由が、サビの先頭かどうかに関係なく、Gaug/Fというコード自体が珍しいという点です。すなわち、「オーギュメントコードが、その構成音ではないルート音に乗っかっている」というレアケースであることが挙げられます。

分数コードの分母が、その分子のコードの構成音でないことはよくあるのですが、augコードに関していえば、分数コードを使う事はほとんどありません。何故かというと、augコード自体が既にノンダイアトニックで独特な表情を持つコードなので、これに更に音を加えてしまうと、どの音を加えても不協和音性が強くなってしまうからです。更にそれにメロディーをつけて、流れの中で自然に使用しないといけない、となると、扱いがものすごく難しくなってしまうのです。

まとめると、本曲のサビの最初に登場するコードは、「それ単独でも他に例を見ないようなコードが、(珍しいコードが使われることが少ない)サビの最初に使用されている」という、まさに「レア中のレアケース」なのです。

この直後に登場するG7とか、間奏で出てきたF7とかも、珍しいと言えば珍しいのですが、最初のGaug/Fのインパクトにはかないませんでした。

楽曲全体としてはアニソンによくありがちな曲調なのですが、Bメロ辺りまでは普通に聴いていたのですが、サビの最初で、突然前触れもなく登場したコードに度肝を抜かれた楽曲でした。このようなコードは普通の感性では思いつかないし、思いついてもなかなかそれをサビの最初で使うところまでは考えないと思うので、作曲者の感性には感心させられるばかりです。

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