本記事では、2016/9/14発売のエラバレシの新曲「ミス・ラビット」のコード進行と、音楽的な解説、および簡単な感想を書いていきます。
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「ミス・ラビット」の概要
「エラバレシ」は、アイドルグループ「バクステ外神田一丁目」のグループ内ユニットとして2016年6月にデビューした8人組のユニットです。デビュー曲からいきなりオリコン週間6位を記録し、今作も好売上が期待されます。
本曲「ミス・ラビット」は、彼女達の2枚目のシングルで、作曲は前作に続き志倉千代丸氏。同氏の作曲した曲には、水樹奈々の「SECRET AMBITION」やいとうかなこの「Hacking to the Gate」等の有名曲があります。また、編曲はアニソンやアイドルソングを多数手がけている悠木真一氏。
本曲は、曲の雰囲気が変化する箇所や、コードの転調が多数存在し、作曲、アレンジともに非常に難しい技術を多用した高度な楽曲と言えます。
「ミス・ラビット」のコード進行
イントロ
|C|D|Dm|C|C|D|Dm|C|(N.C.)|(N.C.)|
イントロは、大きく分けてストリングスから成る前半部分と、電波ソング的な後半部分に分けられます。
前半では、E→F#mというEメジャー調のようなコード進行から、Cメジャーのコード進行に変わっており、3小節目あたりで転調していることがうかがえます。この転調も非常に珍しいのですが、本曲に登場するたくさんの転調に比べたらほんの序の口です(笑)。
また、後半では電波ソングのような電子音、ピコピコ音などが多数使われたアップテンポな曲調に変わりますが、コード進行はC→Dと、一見するとGの王道進行かとも思います。しかし、そのあとはDm→Cで完結感を持つため、キーはCでDが特殊コード(非ダイアトニックコード)であることがわかります。数字でいえばⅠ→Ⅱ→Ⅱm→Ⅰという進行であり、Ⅱのところが非常にオシャレな感じを醸し出しています。
Aメロ
|C|F|C|C|F|F|G|G|
Aメロは、CのメジャースケールにおけるいわゆるスリーコードのC,F,Gから成る部分です。メジャーコードのみが使われているため、非常に明るい印象が続きます。電波ソングによく使われるピコピコ音やシンセブラスのような音が耳に残ります。
Bメロ
|D♭|E♭|Cm|Fm|D♭|D♭|Cm|Cm|C|
Bメロは、Aメロとは一転してゆったりした曲調になります。コード進行はD♭→E♭→Cm→Fmと進み、これはFマイナーキーの王道進行にあたるので、CメジャーのキーからFマイナーのキーに転調していることになります。
通常よく使われる転調は、調号が1個~3個程度変わるものが多いのですが(共通するコードが多いため)、この楽曲で使われている転調は、調号が4つ変わる、比較的珍しいものです。
1つ前のコードであるGとD♭とも関連性も薄いため、「どちらの調でも自然に使える共通コードを利用した転調」ではなく、「唐突に行われる転調」と言えるでしょう。調だけでなくリズム等も変わっているため、AメロとBメロはほとんど別の曲とすら言えるかもしれません。それでも違和感がなく聴けるのは、アレンジが素晴らしいためと思われ、さすがプロのアレンジ術だと思います。
Bメロの最後の方では、和楽器を用いた和風なテイストも含まれています。Bメロではありませんが、サビの最後ではインド楽器のシタールのような音色も聞こえるので、単に電子音を使った電波曲というだけではなく、民族音楽的な要素も多く含んだ楽曲と言えるかと思います。
サビ1
本曲はサビと呼べる部分がどこであるかの判断に迷いました。「♪今の私」というフレーズから始まる部分は、非常にキャッチーなメロディーで、タイトルと同一の文言も歌詞に登場するため、初めて聴いた時はこの部分がサビだと思いました。しかし、更に盛り上がる「♪扉を開ければ~」のフレーズが後に控えているため、前者を「サビ1」、後者を「サビ2」という分類で呼ぶことにしました。この表記は当記事だけにおけるものであり、公式でも何でもありませんのでご注意ください。
さて、この「サビ1」ですが、BメロのFマイナー調から再度Cメジャーの調に転調して元に戻っています。この部分は唐突な転調というわけではなく、一応理論的にも説明できるものになりますので、解説させていただきます(専門用語を多く使う上、個人的な見解なので、読み飛ばしていただいても構いません)。
まず、Bメロの最後のCというコードから説明しますが、このコードはFマイナーキーにおいては、非ダイアトニックなコードではありますが、FmやD♭を導出するために割とよく使われるコードで、数字でいうとⅢにあたります。そして、Cメジャーは同時に、Dマイナーの調においてはドミナント(Ⅴ)であり、DmやFを導出する働きがあります。ですから、CというコードがBメロの最後に存在することと、その直後にDmというコードが来ていることは、自然なことと言えます。
ただ、この転調を行った場合、転調後のキーはDマイナーになることが普通ですが、この曲では更に、Dmがマイナートニック(Ⅵm)に落ち着かず、CメジャーキーにおけるⅡmとしての働きに変わっているのが特徴です。
つまり、このFマイナーからCメジャーへの転調は、一見すると唐突な転調に思いますが、FマイナーからDマイナーへの転調(同主調転調)と、DマイナーからCメジャーへの転調(属調転調)の2つが同時に行われていると考えることができるのです。
その架け橋となっているのが「♪そんな」というフレーズの小節で使われているCコードなわけです。
サビ2
|A|A|Bm|Bm|D|E|(N.C.) or A|(N.C.) or A|(N.C.)|
※最終小節があるのは1コーラスのみ
※2コーラスはAメロ→Bメロ→サビ1→サビ2繰り返し
「サビ1」よりもさらに盛り上がりが増した部分で、「サビ1」の部分から同主調転調(調号が3つ変わる転調)によってAキーに変わっています。この転調は、ここまで述べてきた特殊な転調とは異なり、比較的多くの楽曲で用いられる転調です。「サビ1」の最終小節に使われたEというコードが、前後の調で共通して使える架け橋のコードになっています。
「サビ2」のコード進行はⅠ→Ⅵmと進むパターンで、アイドル曲では多く使われる明るめのコード進行です。後半ではメロディーの変化に伴い、コード進行もⅠ→Ⅱmと変化しています。
メロディーの高さについても言及してみましょう。ヴォーカルの最高音は終了間際に登場する「ミ」です。最高音はここだけですが、高い「ド」以上の高音も長く続くため、アイドル曲としては極めてキーの高い部類に属する楽曲と言えるでしょう。
2コーラス後の間奏~
|Gdim|Gdim|Fm|Fm|Fdim|Fdim|C|C|
※ラスサビはサビ2のコード進行繰り返し
2コーラスのサビの後にピアノの3連符のメロディーが特徴的な間奏があります。ここのコードも非常に特徴的であり、前半8小節のキーはB♭メジャー(Gマイナー)、後半のFmのあたりではFマイナー(A♭メジャー)、最後はCメジャーといった具合に、調性が次々に変わります。
特に、後半のコード進行はディミニッシュコードの響きや、Fmが出てくる部分の転調など、1コードごとに聴く人を「おっ」と思わるような構成になっており、ピアノの演奏と相まって、新鮮な感覚を味わうことができます。
後奏
|C|C|C|C|C B♭|F/A Fm/A♭|G|C|
後奏の最後の方ではベース音がC→B♭→A→A♭と強調される部分があります。この部分は、和音の響きよりはベース音の方が大事なので、分数コードを弾くのが不可能な場合は、分母に書いたコードを単音かパワーコードで弾くと違和感がないと思います。
まとめ
エラバレシの「ミス・ラビット」のコード進行を解説しました。電波的ソング的なアレンジの中に和風の要素を含んでいたり、アイドルソングとしては非常に高いキーであるといった特徴もありますが、コード進行に注目するブログを管理する僕の立場から感想を述べるとすれば、なんといっても転調が多いという特徴が挙げられます。
それも、通常の楽曲に使われるような関係調(近親調)の転調ではなく、一見すると無関係のキーに突然転調するような箇所が、いくつも見られました。これだけのことをやっても、調性がめちゃくちゃにならずに、しっかりと聴ける楽曲になっているというのは、プロの作曲家あるいは編曲家の大きな技術と感性によるものであり、僕のような素人ではとても真似できないなあと思いました。