今回より、新曲を1曲丸ごとコード譜を耳コピし、更にその音楽的な観点から解説する記事を作成していきます。これまで4回ほど、発売される新曲を10数曲、サビのみコード進行を羅列した記事を作成していたのですが、おそらく当ページを検索されて見つけていただいた方の多くは、イントロも含めてフルコーラスのコード譜を知りたいと思いますので、今後は新曲に関しては1曲ごとに1記事を原則として上げさせていただきます。曲数が減る分、1曲ごとにはかなり詳細まで踏み込んだ記事を書いていきたいと思います。
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目次
いきものがかり「ラストシーン」の概要
楽曲解説最初の記事としては8月24日に発売予定の、いきものがかり「ラストシーン」について解説していきたいと思います。この曲は、今年でデビュー10周年を迎えたいきものがかりの32作目のシングルで、9/10公開予定の映画「四月は君の嘘」の主題歌となっている楽曲です。全体的にストリングスの音色が綺麗に効いたバラードナンバーとなっています。
※上の動画は楽曲販売元のレコード会社によりYoutubeに投稿された公式の動画です。
「ラストシーン」のコード進行
イントロ
ピアノの音から始まり、2小節目あたりからストリングスの音も入ります。最初の4コードは、Gキーのカノン進行と同じため、初めて聴いた時はGキーの曲だと思いましたが、2小節目のF#7でおかしいと気づきます。曲を最後まで聴いてから2回目に聴くと、今度は最初からDがキーであることがわかっているため、G→D→Emというコード進行が、Gのカノン進行でなく、DキーにおけるⅣ→Ⅰ進行であることに気づけるわけです。最初にあえてドミナントから入ることで、キーをわからなくさせ、あたかも転調しているような錯覚を覚えますが、実際には全く転調などしておらず、キーは一貫してDメジャーです。意図されているかどうかはわかりませんが、細かいテクニックだなと思いました。
それから、4小節目のA#dim/Aは、この先何度か出てくるのですが、Aの最低音に対してA#から始まるコードがのっかっているため、この部分だけ見るととても不協和音性が大きいように思えるのですが、最低音のAとA#が数オクターブが離れているためか、実際にはそこまでの不快感は感じず、次のトニックコードへの大きな布石になっていることがわかります。
前サビ
本曲のボーカルはまずサビから入ります。伴奏は先ほどまで鳴っていたストリングスがいったん止み、しばらくピアノのみが続いた後、再度ストリングスが復活します。全体的にボーカルを際立たせる構成になっています。最後の小節でドラムやベースが登場します。
1コーラス前の間奏
|Bm7 F#m7|G D|Em7|Asus4 A#dim/A|
この部分からドラム、ベース、ギターなども本格的に演奏が開始されます。カノン進行の代理コードであるⅥm→Ⅲmから始まるマイナー調の進行ですが、そのあとのⅣ→Ⅰの進行により全体としては明るい響きを持っています。4小節目のⅦm7-5→Ⅲは、Ⅵmの前置きとして非常によく使われるテクニックですので、覚えておいて損はない進行です。8小節目で、ここでも不協性を持つA#dim/Aの特殊コードが登場しています。
Aメロ
Aメロはドラムのスネアがなくなるなど、前奏よりやや静かに進みます(ただし、キック、ハイハットは演奏されています)。コードはカノン進行から始まり、ほとんどすべてがメジャーコードで構成されています。2小節目の最後の拍のF#/A#は非ダイアトニックなコード(Ⅲ)であり、この1音があるだけで深みを感じます。4小節目のG/Aは耳コピが合っているか微妙なところで、AかA7の可能性もあります。
Bメロ
|GM7 A7|F#m F#/A# Bm D/A|Em F#m|Gm|Asus4|A|
Bメロは前半と後半で似たようなメロディーですが、コードは前半がⅣ→Ⅲmであるのに対して、後半はⅣ→Ⅴ→Ⅲmの、いわゆる「王道進行」で若干の変化をつけています。Bメロ最大の見せ場は、8小節目のGm(Ⅳm)で、この部分が次のAsus4~Aのドミナント、更にはサビのカノンコードに至るまでの流れで重要な役割を占めているのです。
サビ
サビはコード進行こそ最初のサビと全く同じですが、ストリングやドラムスなどの楽器が入っているため、非常に盛り上がる部分になっています。特にストリングスの旋律が非常にきれいな印象を受けます。
2コーラス前の間奏~2コーラスサビ
Aメロ、Bメロ、サビは1コーラスと同じ(ただしサビは1回のみ)
この部分の間奏は1コーラス前の間奏に似ていますが、C#m7-5やA#dimといった特殊コードを使わず、非常に素直な進行です。
2コーラスのAメロからサビまでは、コード進行は1コーラスと全く同じですが、アレンジは多少異なります。Aメロの前半はドラム音を全く使わない静かな進行であり、逆に後半は、1コーラスの同じ部分よりも多くの楽器を使って盛り上がるような構成になっています。このように、2コーラスの最初だけ静かになるような構成の楽曲は、古今東西を問わず非常に多く見られます。サビについては、1コーラスの半分のみである代わりに、次のCメロが付随しています。
Cメロ~ラスサビ
ラスサビは1コーラスと同じ
多くの曲がそうであるように、Cメロはダイアトニックでないコードがたくさん登場し、2小節目あたりでは転調しているようにすら聞こえます。この部分をベース音だけ見るとB→B♭→A→G#→Gと半音ずつ下がっており、このような場合は変わったコードが多く使われいても不自然に聴こえないことが多いため、多くの楽曲でベースが半音ずつ下がるテクニックが使われています。
Cメロの後は直接ラスサビに入ります。ラスサビは前半がピアノのみの伴奏で歌う見せ場になっており、後半が全楽器による演奏が行われます。コード進行は1コーラスと全く同じです。2コーラスのサビの直後にCメロが入り、間髪入れずにラスサビが入るため、後半にはボーカルが入らない間奏のみの部分がなく、最近の曲としては珍しい傾向だと思います。
後奏
|Bm7 F#m7|G D|Em7|Asus4 A#dim/A|
|Bm G(add9)|
後奏の最初(サビの最後)で、ボーカルが音を伸ばす以外は全て無音になる小節が挿入されます。そのあとは、1コーラス前の前奏と同じ演奏が続いた後、最後はテンポがゆっくりになりながら、ピアノの和音で締めくくります。最後はサブドミナントの不安定な響きで余韻を残しつつ楽曲が終了する、という形になっています。
まとめ
いきものがかりの「ラストシーン」を音楽理論の観点から解説しました。楽曲の構成をとっても、コード進行をとっても「正統派」というべき構成が多い中、不協和音であるA#/Aといった特殊コードも使われているのが秀逸です。ストリングスやピアノもいい具合にボーカルを引き立てる役割をしており、何度聞いても飽きない良曲ですね。このような楽曲がこの先もどんどん出てきてほしいなと思いました。