当ブログでは様々なアーティストについて、頻繁に使われるコード進行の傾向を解析しています。前回、中森明菜の楽曲について記事を書きましたが、今回は主に80年代にその中森明菜と人気を分け合った松田聖子について集計を行ってみました。
松田聖子は1980年に「裸足の季節」でデビュー。2作目の「青い珊瑚礁」で早くもブレイクすると、3作目の「風は秋色」から24作連続でオリコン1位を獲得するなど、その歌唱力やルックスも相まって社会現象となるほどの人気を集めました。
彼女の実績はアイドル時代のものにとどまらず、1996年には「あなたに逢いたくて~Missing You~」が自身初のミリオンヒット。2000年代以降も紅白歌合戦に何度も出場するなど、50代となっても音楽活動を続け、2016年現在、82枚のシングル、50枚のアルバムを発売してしています。
そんな彼女の楽曲ではどのようなコード進行が使われたのでしょうか。そして、他のアーティストの傾向とどのような違いがあるのでしょうか?
目次
集計対象曲および諸注意
集計対象とする曲は、松田聖子が2016年9月までに発売したシングルの1曲目で、全75曲となります。アルバム曲やカップリング曲にも著名な曲がありますが、集計が偏るのを防ぐため、シングルの曲だけにさせていただきました。また、SEIKO名義で海外限定で発売されたものも除外しています。
コード進行の分類は、僕のオリジナルの方法である「サビの最初の2つのコードのみで、曲を分類する方法」により行っています。詳細は下記の記事で書いています。
サビの最初の2つのみに注目した方法であるため、「王道進行」や「カノン進行」といった用語の定義が他のサイトと若干異なることがありますがご了承ください。
同じ順位での楽曲一覧は、発売日が古い順に並べています。
松田聖子のシングル曲で使われたコード進行ランキング
1位 Ⅰ→Ⅳパターン 17曲
- 野ばらのエチュード
- 時間の国のアリス
- Pearl-White Eve
- THE RIGHT COMBINATION
- きっと、また逢える…
- 大切なあなた
- もう一度、初めから
- 輝いた季節へ旅立とう
- 素敵にOnce Again
- あなたに逢いたくて~Missing You~
- 私だけの天使~Angel~
- 20th Party
- The Sound of Fire
- Call me
- Smile on me
- bless you
- 花びら舞う季節に
松田聖子の楽曲のサビにおいて最も使用されているコード進行は、Ⅰ→Ⅳと進むパターンでした。明るいイメージのコード進行で、アップテンポ、スローテンポのいずれの楽曲でも、幅広く使われています。代表曲である「あなたに逢いたくて~Missing You~」の他、90年代の楽曲が特に多いような印象がありました。
2位 Ⅰ→Ⅴパターン(カノン進行)12曲
- 夏の扉
- 瞳はダイアモンド
- 天使のウィンク
- Strawberry Time
- あなたのすべてになりたい
- Unseasonable Shore
- True Love Story
- 真夏の夜の夢
- クリスマスの夜
- Love is all
- あの輝いた季節
- いくつの夜明けを数えたら
2番目に多いのがⅠ→Ⅴと進むパターンでした。80年代の楽曲と2010年代の楽曲が多く、逆にその間の時代の楽曲はそれほど多くはない印象です。「カノン進行」という名称は、当ブログではⅠ→Ⅴから始まるコード進行を総称して呼んでいますが、Ⅰ→Ⅴの後でⅥm→Ⅲmと進むものだけをカノン進行と呼ぶ人もいます。4コードまでが一致する楽曲は上記のリストには1曲もなく、この点は、純粋なカノン進行が多いAKB48等のアイドルソングと異なる点と言えます。
3位 Ⅳ→Ⅴパターン(王道進行)10曲
- 白いパラソル
- Marrakech~マラケッシュ~
- さよならの瞬間
- 哀しみのボート
- 永遠さえ感じた夜
- 特別な恋人
- 涙のしずく
- 夢がさめて
- I Love You!! ~あなたの微笑みに~
- 薔薇のように咲いて 桜のように散って
数々のアーティストで1位か2位の使用率を誇ったⅣ→Ⅴというパターンが3位になりました。このパターンは、明るい曲にも暗い曲にも使用できるコード進行です。特にJ-POPでは、Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵと進むパターンが多く、「王道進行」「J-POP進行」等と呼ばれるほど定番化されたコード進行です。「白いパラソル」は典型的な王道進行のアイドル曲と言えますね。
4位 Ⅰ→Ⅵmパターン 6曲
- 風は秋色
- チェリーブラッサム
- 秘密の花園
- 旅立ちはフリージア
- あなたしか見えない
- I’ll fall in love
アイドルソングのように明るいポップな楽曲で多く使われるⅠ→Ⅵmパターンが6曲。そのうち、4曲が80年代の楽曲。集計前は、このパターンが一番多いのではないかと思っていましたが、それは「松田聖子」と聞いて思い浮かぶ楽曲が、80年代のものが多いためなのかもしれません。実際に、80年代のみで考えれば同率トップの使用率です。
4位 Ⅰ→Ⅲmパターン 6曲
- 青い珊瑚礁
- 風立ちぬ
- 赤いスイートピー
- 渚のバルコニー
- Touch the LOVE
- 逢いたい
こちらもアイドルソングに多く使われ、カノン進行と響きがよく似たパターンです。Ⅰ→Ⅵmパターンと同じく、アイドル時代の代表曲がずらりと並びました。
その他のパターン
- Ⅰ→Ⅱmパターン…「We Are Love」「上海ラヴソング」「永遠のもっと果てまで」
- Ⅱm→Ⅴパターン…「Rock’n Rouge」「Precious Heart」「かこわれて、愛jing」
- Ⅰ→Ⅶm7-5パターン…「天国のキッス」「涙がただこぼれるだけ」
- Ⅳ→Ⅲmパターン…「しあわせな気持ち」「アイドルみたいに歌わせて」
- Ⅴ→Ⅵmパターン…「小麦色のマーメイド」「DANCING SHOES」
- Ⅰ→Ⅰaugパターン…「ボーイの季節」
- Ⅰ→Ⅵパターン…「LuLu!!」
- Ⅰ→Ⅶ♭パターン…「ハートのイアリング」
- Ⅱm→Ⅲmパターン…「愛♡愛~100%」
- Ⅲ→Ⅵmパターン…「裸足の季節」
- Ⅲm→Ⅵmパターン…「I’ll Be There For You」
- Ⅳ→Ⅰパターン…「素敵な明日」
- Ⅳ→Ⅱパターン…「ガラスの林檎」
- Ⅳ→Ⅲパターン…「Gone with the rain」
- Ⅳm→Ⅰパターン…「ピンクのモーツァルト」
- Ⅵm→Ⅱパターン…「A Touch of Destiny」
- Ⅵm→Ⅲmパターン…「恋する想い~Fall in love~」
3曲以下のコードは以上の通りです。まずは、珍しいコード進行についていくつか解説します。
まず、2曲で使われている「Ⅴ→Ⅵm」という進行ですが、Ⅴ(ドミナント)から始まるコードはBメロなどでは普通にありますが、サビでは非常に珍しいです。
それから、「ピンクのモーツァルト」で使われた「Ⅳm→Ⅰ」は最初のコードは非ダイアトニックコードの中でも、特にインパクトのある響きで、この曲以外にこのコードから始まるサビは聴いたことがありません(逆にしたⅠ→Ⅳmというパターンならまだあるのですが)。
あと、「ガラスの林檎」のⅣ→Ⅱというパターンも珍しく、独特の印象を感じることができます。
上に挙げたものほどではないですが、デビュー曲「裸足の季節」のⅢ→Ⅵmも、サビの先頭のコード進行としては比較的珍しいと思います。
続いて、松田聖子の楽曲に登場するコードの傾向について述べます。上位に来たコードも含めて眺めてみると、Ⅰから始まる楽曲が多い割に、Ⅵmから始まる楽曲はほとんどないという事が言えます。一般的にいうと、Ⅰから始まる曲は「明るい」「楽しい」「可愛い」等のイメージを、Ⅵmから始まる曲は「暗い」「悲しい」「カッコいい」などのイメージを持ち、ⅣやⅡmで始まる楽曲はそのどちらも感じる場合が多いです(あくまで一般論なので、そうでない例はたくさんあります)。松田聖子の楽曲では、Ⅵmから始まるものは2曲しかなく、そのいずれもアイドル時代の楽曲ではありません。
松田聖子とアイドル時代に人気を分け合った中森明菜の楽曲では、これとは全く逆の傾向を示しました。すなわち、中森明菜の場合は、Ⅵm→Ⅳの「小室進行」の他、Ⅵm→Ⅴ、Ⅵ→Ⅱm等のパターンが上位を占め、逆にⅠから始まる楽曲はほとんどなかったのです。
中森明菜の集計結果はこちら↓
「松田聖子の楽曲は明るく、中森明菜の曲は暗い」とよく言われることがありますが、多くの方は、彼女たちの外見、声質、性格などの印象からそのようなことを言っているのだと思います。しかし、こうして統計を取って数字にしてみることで、実際に松田聖子の楽曲が明るいものが多い、という事は、音楽理論の観点からも実証されたと言えるのではないでしょうか。
(※なお、暗い曲が多い中森明菜のことを悪く言う意図はありませんので、誤解のないようにお願いします。暗い曲は暗い曲で魅力的だと思いますし、それが中森明菜のいいところでもあると思うので)
まとめ
松田聖子の全シングル曲のサビで使われたコード進行の傾向を解析しました。ある程度予想はできたことですが、トニックコード(Ⅰ)から始まる、明るい楽曲に多いコード進行のパターンが上位を占め、逆にマイナートニック(Ⅵ)から始まるような楽曲はほとんどないという、非常に極端な結果が出ました。
また、アイドル時代の大ヒット曲であっても、他でもあまり見かけないような変わったコード進行の楽曲がいくつかあったことも印象的でした。
今後も様々なアーティストで同様な集計を行っていきたいと思います。