以下の記事で2011年までにVOCALOIDの楽曲としてニコニコ動画に投稿された人気曲について、どのようなコード進行の楽曲が多いのかをパターン別に解析しました。本記事はその続きで、2012年以降に投稿された楽曲で同様の集計を行います。
目次
集計対象曲および諸注意
画像引用元:©鏡音リン・レン V4X | クリプトン
集計対象とする曲は、ニコニコ動画に2012年以降に投稿されたVOCALOIDのオリジナル曲のうち、2016年9月時点で再生数が100万回を超えている、いわゆる「伝説入り」の楽曲です。機械的に100万という数字で区切っているため、この記事を書いた後に100万再生を達成した楽曲は、残念ながら集計から外れることになってしまいますが、ご了承ください。
曲の一覧は、ニコニコ大百科(仮)のこちらのページを参考にしました(外部サイトへのリンクとなります)
オリジナル曲ではないもの(「みんなみくみくにしてあげる♪」「名前のない怪物」など)や、タイトルに下ネタを含むものは割愛させていただいております。同じ順位における曲リストの順番は、年代が古い順(投稿日順)となっております。
コード進行のパターンは、当ブログのオリジナルの方法である「サビの最初の2つに着目した分類法」によって行います。これは、2つのコードに絞ることで、コード進行のパターン数が膨大になることを防ぐ意味もありますが、サビの最初の2つのコードが、楽曲の表情、感情を決めるにあたって特に重要である、という考えからです。このような分類法を用いているため、「カノン進行」や「王道進行」といった言葉の定義は、他のサイトで行われているものと若干異なる可能性があります(他サイトは4コード以上のまとまりをもって、それらの名称で呼んでいることもあるため)。
ちなみに、2011年以前の楽曲では、Ⅳ→Ⅴのパターン(王道進行)、Ⅵm→Ⅳのパターン(小室進行)、Ⅳ→Ⅲパターンの順に多く使われていました。今回はどのような結果になるでしょうか。
VOCALOID伝説入り楽曲で使われたコード進行ランキング
1位 Ⅳ→Ⅴパターン(王道進行)27曲
- イージーデンス/ミク
- 二次元ドリームフィーバー/ミク
- My Colorful Confuse/GUMI
- ろりこんでよかった~/ミク
- 罰ゲーム/ミク,GUMI
- コノハの世界事情/ミク,IA
- 六兆年と一夜物語/IA
- チェックメイト/GUMI
- セツナトリップ/GUMI
- 39/ミク
- カミサマネジマキ/GUMI
- いーあるふぁんくらぶ/GUMI,リン
- サリシノハラ/ミク
- 一途な片思い、実らせたい小さな幸せ。/MAYU
- ケッペキショウ/GUMI
- ロストワンの号哭/リン
- ヤンキーボーイ・ヤンキーガール/GUMI
- ハウトゥー世界征服/リン、レン
- 魔法少女幸福論/ミク
- 敗北の少年/GUMI
- たすけてドラえもん/ミク
- 夕景イエスタデイ/IA
- ドーナツホール/GUMI
- ウミユリ海底譚/ミク
- M.S.S.Phantom/ミク
- 恋愛裁判/ミク
- ツギハギスタッカート/ミク
2011年以前の集計結果と同じく、Ⅳ→Ⅴと進むパターンが1位になりました。王道進行と呼ばれるⅣ→Ⅴ→Ⅲmだけでなく、Ⅳ→Ⅴ→Ⅵの456進行も多く含みます。ニコニコ動画が始まってから約10年がたちますが、この10年間、常にこのパターンのコード進行で始まるサビの楽曲が、再生数を稼ぎ続けてきたことになります。
2位 Ⅵm→Ⅳパターン(小室進行)21曲
- とても痛い痛がりたい/VY2,VY1V3
- Black Board/ミク
- マダラカルト/GUMI
- アイロニ/初音ミク
- 再教育/リン,レン
- WAVE/lily
- Twilight ∞ nighT/MEIKO,KAITO,がくぽ,GUMI,ミク,リン,レン,ルカ
- 透明エレジー/GUMI
- ブリキノダンス/ミク
- イドラのサーカス/リン
- アウターサイエンス/IA
- サマータイムレコード/IA
- 妄想税/ミク
- LUVORATORRRRRY!/GUMI,リン
- ストリーミングハート/ミク
- Blessing/ミク,レン,リン,ルカ,KAITO,MEIKO
- アスノヨゾラ哨戒班/IA
- EveR ∞ LastinG ∞ NighT/MEIKO,KAITO,がくぽ,GUMI,ミク,リン,レン,ルカ
- メリュー/ミク
- ゴーストルール/ミク
- 脱法ロック/レン
2位も前回の集計時と同じく、Ⅵm→Ⅳの「小室進行」でした。カッコいい曲、暗い曲等で使われることが多く、アーティストによっては全く使われないこともある進行ですが、VOCALOIDにおいては10年近く常に人気のコード進行であり続けたことになります。
3位 Ⅳ→Ⅲmパターン 7曲
- 九龍レトロ/GUMI
- 夜咄ディセイブ/IA
- ロスタイムメモリー/IA
- アヤノの幸福理論/IA
- 好き!雪!本気マジック/ミク
- ヒビカセ/ミク
- ボーカロイドたちがただ2コードくりかえすだけ/リン 他
前回の集計ではⅣ→Ⅲというパターンが3位になりましたが、今回はⅣ→Ⅲmが3位でした。とはいえ、Ⅳ→ⅢとⅣ→Ⅲmは耳コピにおいても区別が非常に難しい2つのパターンであるため、ここに挙げた楽曲と、Ⅳ→Ⅲパターンのところに挙げた楽曲は、コードの判定が逆になっている可能性も大いにあり得ます。
Ⅳ→Ⅲの方も今回は6曲あり、わずか1曲の差は誤差の範囲内と言えるでしょう。他のアーティストではそれほど多くない2つの進行が、VOCALOIDでは比較的多いという傾向は、5年前も現在も変わらないということがわかりました。
ちなみに、「ボーカロイドたちがただ2コードくりかえすだけ」という楽曲は、1曲を通してほとんどの部分が「A♭→Gm」の2コードのみを使っており、Ⅳ→Ⅲmの響きを味わうにはうってつけの楽曲だと思います。
3位 Ⅵm→Ⅰパターン 7曲
- 威風堂々/ルカ,ミク,GUMI,IA,リン
- ギガンティックO.T.N/レン
- 過食性:アイドル症候群/GUMI,MAYU
- 一触即発☆禅ガール/ミク,GUMI
- M.S.S.Planet/ミク,GUMI
- +♂/レン
- チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!/ゆかり
もう一つの1位がⅥm→Ⅰと進むパターン。こちらも、2011年以前でも比較的多く使われていたコード進行で、カッコよく力強い楽曲で多く使われます。VOCALOID以外のアーティストでは決して多い方とは言えないのですが、そういうコードが軒並み上位になるというのは興味深いですね。
5位 Ⅳ→Ⅲパターン 6曲
- Bad ∞ End ∞ Night/MEIKO,KAITO,がくぽ,GUMI,ミク,リン,レン,ルカ
- イカサマライフゲイム/GUMI
- 脳漿炸裂ガール/ミク,GUMI
- オレンジ/初音ミク
- 聖槍爆裂ボーイ/レン
- 脳内革命ガール/ミク
上のⅣ→Ⅲmのところでも述べたⅣ→Ⅲ進行が6曲。非ダイアトニックコードを含むコードは、通常は特徴的なフィーリングを持ち、ダイアトニックのみで構成されたコード進行とは区別がつきやすいはずなのですが、どういうわけかⅣ→ⅢmとⅣ→Ⅲの違いだけは、いつも判定が難しい気がします。
Ⅵm→Ⅴパターン 6曲
- 恋愛勇者/GUMI
- チルドレンレコード/IA
- THE WORLDS/ミク
- 世界寿命と最後の一日/GUMI
- ECHO/GUMI
- エイリアンエイリアン/ミク
こちらは小室進行と似たⅥm→Ⅴパターン。これにより、上位6パターンは、いずれもマイナー調(短調)で使われるコード進行となり(王道進行だけはそうとも言い切れませんが)、明るく楽しい楽曲よりも暗い、切ない、カッコいいといったイメージを持った楽曲が圧倒的に多いことが前回に引き続き言えるかと思います。
5曲以下のパターン
- Ⅰ→Ⅳパターン・・・「ドレミファロンド」/ミク、「如月アテンション」/IA、「地球最後の告白を」/GUMI、「告白予行練習」/GUMI、「アイドルを咲かせ」/ミク
- Ⅰ→Ⅴパターン(カノン進行)・・・「放課後ストライド」/GUMI、「ヤキモチの答え」/GUMI、「告白ライバル宣言」/GUMI、「全く身にならないソング」/ゆかり
- Ⅵm→Ⅱmパターン・・・「paranoia」/ミク、「独りんぼエンヴィー」/ミク、「毒占欲」/ミク
- Ⅳ→Ⅰパターン・・・「サヨナラチェーンソー」/ゆかり、「Ib」/IA、「ビバハピ」/ミク
- Ⅰ→Ⅲmパターン・・・「想像フォレスト」/IA、「すろぉもぉしょん」/ミク
- Ⅰ→Ⅲパターン・・・「オツキミリサイタル」/IA
- Ⅱm→Ⅲmパターン・・・「リンカーネイション」/GUMI,リン
- Ⅱm→Ⅴパターン・・・「ありふれたせかいせいふく」/ミク
- Ⅵm→Ⅱパターン・・・「猪突猛進ガール」/ミク,GUMI
- Ⅵm→Ⅲパターン・・・「Crazy ∞ nighT」/MEIKO,KAITO,がくぽ,GUMI,ミク,リン,レン,ルカ
- Ⅵm→Ⅲmパターン・・・「夜明けと蛍」/ミク
- Ⅵm→Ⅳ7パターン・・・「おこちゃま戦争」/リン,レン
今回は、前回よりも更にカノン進行が少なかった印象です。メジャートニックから始まるパターン自体が少ないですね。
ただ、マイナーコードから始まる楽曲が多い中、Ⅵm→Ⅲmのパターンは1曲のみ。偶然なのかもしれませんが、前回とは大きく異なる傾向を見せた唯一の進行と言えるかもしれません。
なお、集計対象となっていますがコードの判定ができなかったのは以下の3曲。
- こちら、幸福安心委員会です。/ミク
- 永遠に幸せになる方法、見つけました。/ミク
- 幸せになれる隠しコマンドがあるらしい/ゆかり
いずれもうたたP氏による楽曲で、サビはラップやセリフの部分と思われ、ノンコードか単一コードに近いフィーリングのため、コードの判定は断念しました(汗)。
まとめ
2012年~2016年のミリオン再生を達成したVOCALOID楽曲でコード進行パターンの分析を行いました。前回の記事で集計対象とした2007年~2011年から5年も後の期間のため、異なる傾向を見せるのではないかと期待をしていたのですが、前回とほとんど傾向は変わらないという結果に終わりました。
すなわち、王道進行や小室進行および、それに似たコード進行が非常に多く、Ⅳ→ⅢやⅣ→Ⅲmといったパターンから始まるサビも、他のアーティストに比べるとかなり多いという傾向です。逆に、J-POPにおいて多く使われるカノン進行等のメジャー系統のコード進行が、VOCALOIDにおいては極端に少ないというのも、前回の結果とほぼ合致します。
前回と同じというのは、つまらない結論のように思えますが、前回の結果が偶然そのようになったのではない、という事を裏付けた意味はあったかと思います。2つの記事を合わせれば、集計した曲数も240を超えるため、統計的にも信用できる結果と言えるのではないでしょうか。
VOCALOIDの楽曲を視聴者が評価する場合、普通は、歌詞やメロディー、動画、調教のうまさなどで判定するかと思います。コード進行の響きで評価する人などほぼいないと言ってもいいでしょう。それは通常のポップスを聴く際も同じでしょう。にもかかわらず、これほど多種多様な楽曲が投稿されていながら、一般のJ-POPとVOCALOIDで大きく異なる傾向を示したことは、大変興味深い結果なのではないかと思います。
VOCALOID曲の公開を行っている方の中で、再生数が伸びずに悩んでいる方は、この結果だけ見れば、王道進行や小室進行の楽曲を積極的に作っていくことを考えられるかもしれません。ただし、同じようなパターンの曲が増えればやがて飽きが来る可能性もありますし、慣れないコードを使うことで自分の作曲スタイルが崩れてしまっても良くないでしょう。
確かに、コード進行により人気曲に大きな偏りが出たのは事実ですが、そうはいってもコード進行だけがVOCALOID曲の評価を決めるわけではありませんので、当記事はあくまで参考程度に読んでいただければ幸いです。